
経営管理ビザの更新を控えている経営者の方から、
「役員報酬を月10万円にしていますが、更新できますか?」
「会社がまだ赤字なので、自分の役員報酬を低くしています」
「役員報酬が低いと、事業をしていないと判断されませんか?」
「経営管理ビザに最低年収の基準はありますか?」
といったご相談を受けることがあります。
結論からいうと、会社を経営する代表者について、
「役員報酬が月○万円以上でなければ経営管理ビザを更新できない」
という一律の最低金額が公表されているわけではありません。
そのため、役員報酬が低いという理由だけで、直ちに更新が不許可になるとは限りません。
一方で、役員報酬が極端に低い場合には、
「経営者として実際に活動しているのか」
「会社に十分な収益力があるのか」
「日本でどのように生活しているのか」
「事業を継続できる状態にあるのか」
といった点との関係で、説明が必要になることがあります。
また、経営管理ビザでは「事業の経営を行う人」と「事業の管理に従事する人」で、報酬に関する基準の考え方が異なります。
本記事では、経営管理ビザの更新時に役員報酬が低い場合の考え方と、更新前に確認しておきたいポイントについて、中小企業診断士・行政書士の視点から解説します。
経営管理ビザに「役員報酬○万円以上」という基準はある?
まず、経営管理ビザを取得して自ら会社を経営している代表取締役などについて、
「月額20万円以上」
「年収300万円以上」
といった一律の役員報酬基準が、出入国在留管理庁から示されているわけではありません。
したがって、
役員報酬が低い = 自動的に更新不許可
とはいえません。
一方、経営管理ビザの上陸基準では、申請人が「事業の管理」に従事する場合について、
・事業の経営または管理について一定の経験を有すること
・日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること
という基準があります。
つまり、
自ら事業を経営する「経営者」
と、
会社等に雇用されて事業の「管理」に従事する人
では、報酬に関する基準を分けて考える必要があります。
出入国在留管理庁の在留資格「経営・管理」の案内でも、日本法人の役員に就任する場合には、役員報酬を定める定款や株主総会議事録等が申請資料として示されています。
役員報酬が低くても、それだけで更新できないわけではない
創業直後の会社では、
・まだ売上が十分に立っていない
・利益が少ない
・運転資金を会社に残したい
・事業拡大のために資金を再投資したい
といった理由から、代表者の役員報酬を低く設定していることがあります。
こうした事情自体は、会社経営では珍しいものではありません。
特に、
「創業1年目なので、まず会社の資金を厚くするため役員報酬を抑えた」
「店舗開業に費用がかかり、初年度は低い役員報酬とした」
「売上が安定するまでは報酬を低くし、翌期から増額する予定である」
など、事業状況との関係を合理的に説明できるケースもあります。
そのため、役員報酬の金額だけを見るのではなく、
なぜその金額なのか
という点が重要です。
ただし「生活できないほど低い報酬」は説明が必要になる
役員報酬が低い場合に気になるのが、
「その金額で日本で生活できるのか」
という点です。
経営管理ビザの更新では、申請人本人について住民税の課税証明書・納税証明書が提出資料となっており、1年間の総所得も確認されます。
そのため、たとえば役員報酬が月5万円、10万円といった水準であれば、
「家賃や生活費をどのように負担しているのか」
という疑問が生じる可能性があります。
もちろん、
役員報酬が低ければ必ず問題になる
というわけではありません。
たとえば、
・過去に蓄えた預貯金がある
・配偶者にも収入がある
・会社から適法に処理された社宅等の提供がある
・一時的に役員報酬を低く設定している明確な事情がある
など、実際の生活状況は人によって異なります。
重要なのは、
役員報酬の金額と実際の生活状況との間に不自然な点がないこと
です。
役員報酬が低いと「会社の経営状態」も確認したい
役員報酬が低い理由が、
「会社に報酬を支払う余裕がないから」
という場合には、役員報酬そのものよりも、会社の経営状態を確認する必要があります。
たとえば、
・売上が少ない
・営業赤字が続いている
・現預金が減少している
・借入金が増えている
・債務超過になっている
・税金や社会保険料を支払えていない
という状況であれば、
事業の継続性
そのものが重要な論点になります。
経営管理ビザの更新では、直近の決算書も提出資料となっています。
役員報酬だけを確認するのではなく、
売上
↓
利益
↓
資金繰り
↓
役員報酬
↓
今後の事業継続
という全体のつながりを見ることが重要です。
決算書で確認されるポイントについては、経営管理ビザ更新で決算書のどこを見られる?中小企業診断士が財務面を解説でも詳しく解説しています。
売上が少ない会社では役員報酬との整合性を見る
たとえば、
年間売上300万円
役員報酬年間240万円
という会社であれば、
「その他の経費や事業資金を考えたとき、本当にこの事業が継続できるのか」
という問題があります。
逆に、
年間売上3,000万円
営業利益500万円
役員報酬年間120万円
という会社であれば、
「なぜ会社に十分な利益があるのに、代表者の報酬を低くしているのか」
という別の疑問が生じる可能性があります。
つまり、
高ければよい
低ければ悪い
という話ではありません。
役員報酬は、
会社の売上・利益・資金繰りと整合しているか
という視点で考える必要があります。
売上が少ない場合の更新については、経営管理ビザ更新で売上が少ない場合はどうなる?更新申請で確認されるポイントもあわせてご覧ください。
「役員報酬を支払ったことにしている」ケースは注意
役員報酬の設定額だけでなく、
実際にその金額が支払われているか
も重要です。
たとえば株主総会議事録等では、
役員報酬 月額30万円
と定めているにもかかわらず、
実際には会社口座から代表者へほとんど支払いが行われていない
というケースがあります。
この場合、
「役員報酬として設定している金額」
と、
「実際に支給されている金額」
が一致しません。
さらに、
・源泉所得税の処理
・社会保険
・給与台帳
・会計帳簿
・住民税の課税証明書
・会社口座からの振込実績
などとの整合性にも注意が必要です。
形式上だけ役員報酬を設定して、実態が伴っていない状態は避けるべきです。
役員報酬が未払いになっている場合
会社の資金繰りが悪化すると、
「役員報酬を計上しているが、実際には未払い」
という状態になることがあります。
会計上は、
役員報酬 30万円
未払金 30万円
などとして処理されることがありますが、未払いが長期間続いている場合には、
会社が役員報酬を支払える経営状態なのか
という問題があります。
特に、
売上減少
+
赤字
+
債務超過
+
役員報酬未払い
という状態では、単に「報酬が低い」という問題ではありません。
会社の経営改善計画や、今後の収益見通しまで確認する必要があります。
役員報酬を0円にしている場合は?
創業者の中には、
「会社にお金を残したいので、役員報酬を0円にしています」
という方もいます。
経営者について一律に「役員報酬0円なら経営管理ビザ不可」とする公表基準があるわけではありません。
しかし、経営管理ビザは、
本邦において事業の経営または管理に従事する活動
を行うための在留資格です。
そのため、
会社を経営している
↓
しかし会社から報酬を一切受けていない
↓
生活費をどのように確保しているのか
という点については、慎重に確認した方がよいでしょう。
また、共同経営者が複数いる場合には、出入国在留管理庁も、
・それぞれが経営・管理を行う合理的な理由
・それぞれの担当業務
・経営・管理業務の対価として報酬を受けていること
などを踏まえて在留資格該当性を判断するとしています。
共同経営者がいる会社で一人だけ報酬が極端に低い、または0円という場合には、
その人が本当に経営・管理活動を行っているのか
という点との関係にも注意が必要です。
役員報酬が高すぎる場合も会社の収益力とのバランスを見る
役員報酬については、
低い場合だけ注意すればよい
というわけでもありません。
たとえば、会社が大幅な赤字であるにもかかわらず、高額な役員報酬を支払い続けている場合には、
「なぜ会社の財務状態が悪いのに、この役員報酬を維持しているのか」
という経営上の問題があります。
役員報酬を減額すれば、会社の利益やキャッシュフローが改善する場合もあります。
一方、役員報酬の変更には税務上のルールがあります。
会社の決算や法人税との関係もありますので、実際に役員報酬額を変更する場合には、税理士等へ確認したうえで進めることをおすすめします。
役員報酬が低い場合に準備しておきたい資料
更新時に役員報酬が低いことが気になる場合には、まず事実関係を整理します。
確認しておきたい資料としては、
・役員報酬を決定した株主総会議事録等
・給与台帳
・源泉徴収票
・住民税の課税証明書
・住民税の納税証明書
・社会保険関係資料
・会社口座からの役員報酬振込記録
・直近の決算書
・法人税確定申告書
・最新の試算表
・月次売上資料
などがあります。
そのうえで、
「なぜ現在の役員報酬額なのか」
を説明できる状態にしておきます。
たとえば創業初期で役員報酬を抑えている場合
たとえば、
「創業初年度は開業費用と運転資金を確保するため役員報酬を月10万円としている」
というケースであれば、
それだけで終わらせるのではなく、
・現在の売上はいくらか
・毎月の固定費はいくらか
・会社にどの程度現預金があるか
・今後売上がどの程度増える見込みか
・いつ役員報酬を見直す予定か
まで確認します。
さらに、
売上単価 × 顧客数
販売単価 × 販売数量
契約単価 × 契約社数
などによって、今後の売上計画を具体化できれば、説明の合理性が高まります。
会社が赤字だから役員報酬を下げた場合
会社の赤字を改善するために、代表者自身が役員報酬を減額しているケースもあります。
この場合には、
「報酬が低いこと」
だけを見るのではなく、
役員報酬を減額することで会社の損益がどの程度改善するのか
を確認します。
たとえば、
役員報酬の減額 年間240万円
価格改定による粗利益増加 年間200万円
外注費削減 年間150万円
といった改善策があり、
合計590万円の利益改善
が見込まれるのであれば、今後の黒字化に向けた一つの経営改善策として説明できます。
重要なのは、
役員報酬を下げました
だけではなく、
その結果、会社がどう改善するのか
まで示すことです。
債務超過の場合は役員報酬だけでは解決しない
役員報酬を下げれば、翌期以降の利益改善にはつながります。
しかし、すでに大きな債務超過となっている場合には、
役員報酬を少し下げるだけでは十分でない
こともあります。
たとえば、
債務超過額 1,000万円
役員報酬削減効果 年間120万円
であれば、それだけで短期間に債務超過を解消することは困難です。
この場合には、
・売上拡大
・粗利益改善
・固定費削減
・役員報酬の見直し
・新規事業
・資金調達
などを組み合わせ、会社全体の改善計画を作る必要があります。
債務超過の場合に必要となる専門家書類については、経営管理ビザ更新で債務超過|中小企業診断士の評価書が必要になるケースもあわせてご覧ください。
税金・社会保険との整合性にも注意
役員報酬を設定すると、
・所得税
・住民税
・社会保険
などとも関係します。
現在の経営管理ビザ更新では、申請人本人の住民税だけでなく、会社の税金、社会保険、労働保険等の履行状況も確認されます。
したがって、
「役員報酬は月30万円としている」
一方で、
「源泉所得税を納付していない」
「社会保険に加入していない」
という状態では、別の問題が生じます。
経営管理ビザ更新時の税金・社会保険については、経営管理ビザ更新で税金・社会保険の未納がある場合はどうなる?納付状況の確認ポイントもあわせて確認しておきたいところです。
※上記記事のURLは、公開後の実際のURLに合わせて設定してください。
2025年10月の経営管理ビザ新基準との関係
2025年10月16日から、在留資格「経営・管理」の許可基準が改正されました。
主な改正内容として、
・常勤職員1名以上の雇用
・資本金等3,000万円以上
・一定の日本語能力
・申請人の学歴・実務経験
・事業計画書の専門家確認
などが設けられています。
一方、
「経営者本人の役員報酬を月○万円以上にする」
という新たな一律の基準が追加されたわけではありません。
改正前から経営管理ビザで在留している方については、2028年10月16日まで経過的な取扱いがあります。
出入国在留管理庁は、この期間中について、新基準を満たしていないことだけを理由として更新不許可になるものではないと説明しています。
さらに、経過措置終了後についても、
・経営状況が良好であること
・法人税等の納付義務を適切に履行していること
・次回更新までに新基準を満たす見込みがあること
などを含め、在留状況を総合的に考慮して判断するとしています。
出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」
したがって今後は、
「役員報酬はいくらなら大丈夫か」
だけではなく、
会社全体が継続的に経営できる状態になっているか
という視点がこれまで以上に重要になります。
更新前に確認したいチェックポイント
役員報酬が低い場合には、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
・役員報酬額はいくらか
・実際に毎月支給されているか
・株主総会議事録等の設定額と一致しているか
・住民税の課税証明書等の所得と整合しているか
・源泉所得税を適切に処理しているか
・社会保険の加入・納付状況に問題がないか
・会社の売上・利益とのバランスは合理的か
・役員報酬が低い理由を説明できるか
・生活費をどのように確保しているか
・会社が赤字や債務超過になっていないか
・最新の試算表では経営状態が改善しているか
・今後役員報酬を見直す予定があるか
役員報酬だけを単独で見るのではなく、
本人の生活
+
会社の収益力
+
事業実態
+
税金・社会保険
+
今後の事業計画
まで含めて確認することが重要です。
中小企業診断士・行政書士に依頼するメリット
役員報酬が低い場合の経営管理ビザ更新では、
「月額○万円なら大丈夫」
と機械的に判断できるものではありません。
たとえば役員報酬が低い原因が、
会社の売上不足
にあるのであれば、
・現在の売上
・粗利益
・固定費
・損益分岐点
・今後の受注見込み
・役員報酬を含めた人件費
まで確認する必要があります。
さらに赤字や債務超過になっているのであれば、
今後どのように会社を改善するのか
という経営計画も必要になります。
中小企業診断士は、財務分析、経営改善、事業計画を扱う経営の専門家です。
行政書士は、在留資格をはじめとする行政手続の専門家です。
当事務所では双方の視点から、
「更新申請で何を説明する必要があるか」
だけでなく、
「会社として今後どのような経営状態を目指すべきか」
まで整理します。
当事務所で対応できること
当事務所では、経営管理ビザ更新について、
・役員報酬が低い場合の申請内容の整理
・決算書、試算表の確認
・会社の売上・利益・資金繰りの分析
・役員報酬と会社の収益力との整合性確認
・事業実態を示す資料の整理
・今後の事業計画・収支計画の作成
・赤字・債務超過時の経営改善計画の作成
・必要に応じた専門家書類の作成
・入管から追加資料を求められた場合の対応
などに対応しています。
経営管理ビザ更新全体で確認しておきたいポイントについては、経営管理ビザ更新が不許可になる主な理由|更新前に確認したいポイントもあわせてご覧ください。
ご依頼の流れ
1.お問い合わせ
現在の在留期限、役員報酬額、会社の決算状況など、気になっている点をお知らせください。
2.資料確認
決算書、確定申告書、最新の試算表、役員報酬関係資料、住民税課税証明書等を確認します。
3.会社と申請人の状況整理
会社の売上・利益・財務状態と、役員報酬、申請人本人の所得状況などを整理します。
4.必要な対応を確認
役員報酬が低い理由や、今後の事業計画、収支計画等について確認します。
赤字・債務超過等がある場合には、必要な改善策も検討します。
5.申請資料の作成
必要に応じて、理由説明書、事業計画書、収支計画、経営改善計画等を作成します。
6.内容確認・修正
決算書、納税資料、役員報酬、事業計画等に矛盾がないか確認します。
7.納品・申請
完成した書類を納品し、ご依頼内容に応じて在留期間更新許可申請まで対応します。
料金の目安
経営管理ビザ更新において事業計画書の作成が必要となる場合は、
事業計画書作成:100,000円(税別)
を目安としています。
赤字・債務超過等により「改善の見通しについて評価を行った書面」が必要となる場合は、
改善見通しに関する評価書作成:100,000円(税別)
を目安としています。
更新申請そのものや追加資料対応については、状況を確認したうえで個別にお見積りします。
まとめ|役員報酬の金額だけでなく「なぜその金額なのか」を確認する
経営管理ビザの更新では、自ら会社を経営する代表者について、
「役員報酬は月○万円以上必要」
という一律の最低金額が公表されているわけではありません。
したがって、
役員報酬が低いという理由だけで、直ちに更新不許可になるわけではありません。
一方で、役員報酬が極端に低い場合には、
・なぜその金額なのか
・実際に報酬が支払われているか
・日本でどのように生活しているのか
・会社に十分な収益力があるのか
・事業を継続できるのか
を確認することが重要です。
特に、
役員報酬が低い
+
売上が少ない
+
赤字
+
債務超過
という状態になっている場合には、役員報酬だけの問題ではありません。
会社全体の経営状態を確認し、必要に応じて今後の売上・利益計画や経営改善策まで整理する必要があります。
「役員報酬はいくらなら大丈夫か」
だけを考えるのではなく、
役員報酬、会社の財務状況、事業実態、本人の生活状況が全体として合理的に説明できるか
という視点で更新準備を進めることをおすすめします。
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