
経営管理ビザを取得して日本で会社を経営していると、経営環境や顧客ニーズの変化に応じて、当初の事業計画とは異なる事業を始めたり、主力事業そのものを変更したりすることがあります。
たとえば、
- 貿易業に加えてEC販売を始めた
- 飲食店経営に加えて別のサービス事業を始めた
- 店舗販売からオンライン販売へ軸足を移した
- 当初予定していた事業を縮小し、新規事業を主力にした
- 既存事業とは異なる業種へ進出した
といったケースです。
このような場合、
「前回の経営管理ビザ申請で提出した事業計画書と内容が違っていても更新できるのか」
と不安に感じる方も多いと思います。
結論からいうと、前回申請時から事業内容が変わったという理由だけで、直ちに経営管理ビザを更新できなくなるわけではありません。
在留資格「経営・管理」で重要なのは、変更後も申請人本人が日本で事業の経営または管理に実質的に従事していることです。
出入国在留管理庁の在留資格「経営・管理」でも、「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動」が対象とされています。
一方、事業内容が大きく変わっている場合には、
- なぜ事業を変更したのか
- 現在どのような事業を行っているのか
- 実際に売上や取引が発生しているのか
- 申請人本人が経営・管理に実質的に関与しているのか
- 新しい事業に必要な許認可を取得しているのか
- 今後も事業を継続できるのか
といった点を整理しておくことが重要です。
本記事では、経営管理ビザの更新時に前回申請から事業内容が変わっている場合の注意点について、中小企業診断士・行政書士の視点から解説します。
経営管理ビザは「前回と同じ業種を続けること」が絶対条件ではない
経営管理ビザは、飲食業、貿易業、EC事業など、特定の業種だけに認められる在留資格ではありません。
重要なのは、申請人本人が日本で行われる事業の経営または管理に従事していることです。
したがって、
「最初に貿易業で経営管理ビザを取得したので、その後も貿易業しかできない」
という単純な制度ではありません。
会社を経営していれば、市場環境、顧客ニーズ、競合状況などによって、事業内容を変更したり、新しい事業へ進出したりすることは十分にあり得ます。
ただし、事業変更後も、申請人本人が「経営・管理」に該当する活動を実際に行っている必要があります。
単に会社の代表取締役として登記されているだけではなく、
- 経営方針の決定
- 事業計画の策定
- 資金管理
- 取引先との交渉
- 従業員の管理
- 新規事業への投資判断
など、実際に会社の経営に関与していることが重要です。
まず「なぜ事業内容を変更したのか」を整理する
前回申請時と事業内容が変わっている場合には、最初に変更理由を整理します。
たとえば、
- 当初想定していた市場に十分な需要がなかった
- 既存顧客から新しいサービスへの要望があった
- 既存の仕入先や販売ネットワークを活用して新事業へ進出した
- 店舗型からオンライン型へ販売方法を変更した
- 外部環境の変化によって当初事業の採算が悪化した
- 既存事業だけでは安定した収益確保が難しく、新たな収益源が必要になった
などが考えられます。
ここで、
「前の事業が儲からなかったので、別のことを始めました」
だけでは、経営判断としての合理性が十分に伝わりません。
更新時には、
当初の事業計画
→ 実際に事業を行った結果
→ 発生した課題
→ 経営判断としての事業変更
→ 現在の事業
という流れで整理すると分かりやすくなります。
事業計画どおりにいかなかったことを隠すのではなく、実際の経営結果を踏まえて、なぜ事業内容を変更したのかを説明することが重要です。
ケース1|既存事業に新しい事業を追加した場合
比較的整理しやすいのは、従来の事業を継続しながら新規事業を追加したケースです。
たとえば、
- 貿易業+EC販売
- 飲食店+食品販売
- 美容サロン+美容商品の販売
- 宿泊事業+飲食事業
などです。
この場合には、既存事業と新規事業の関係性を整理すると分かりやすくなります。
たとえば、
「既存顧客からの要望を受けて新サービスを始めた」
「既存の仕入ルートを利用して販売事業を追加した」
「既存事業で蓄積したノウハウを活かして関連事業へ進出した」
といった説明です。
さらに、
- 新規事業の売上
- 顧客数
- 契約件数
- 投資額
- 人員体制
なども整理することで、単なる構想ではなく、実際に新しい事業を行っていることを説明しやすくなります。
ケース2|主力事業そのものを変更した場合
より注意したいのが、前回申請時の主力事業をほとんど行わなくなり、別の事業が中心になっているケースです。
たとえば、
「前回は貿易業を中心とした事業計画だったが、現在はEC事業が売上の大部分を占めている」
という場合です。
このケースでは、
- なぜ当初事業を縮小・撤退したのか
- なぜ新しい事業を選択したのか
- 新事業をどのように立ち上げたのか
- 現在どの程度の売上が発生しているのか
- 今後も新事業を継続できる根拠があるのか
まで整理しておきたいところです。
企業経営では、当初計画どおりに事業が進まないこともあります。
重要なのは、前回事業計画との差異を隠すことではなく、事業変更が経営上合理的な判断であり、現在の事業に実態と継続性があることを説明することです。
ケース3|全く異なる業種へ進出した場合
既存事業との関連性がほとんどない事業へ進出する場合には、より丁寧な説明が必要になります。
たとえば、
- 貿易会社が飲食店を開業する
- コンサルティング会社が小売業へ進出する
- EC事業者が宿泊事業を始める
といったケースです。
この場合には、
- なぜその市場へ参入するのか
- 経営者に経験やノウハウがあるのか
- 必要な人材を確保できているのか
- 店舗や設備を準備しているのか
- 必要な許認可を取得しているのか
- 投資資金をどのように確保したのか
- 売上計画に根拠があるのか
などを整理します。
既存事業との関連性が薄いほど、
「なぜこの会社がこの新事業を実現できるのか」
という実現可能性の説明が重要になります。
変更後の「事業実態」を説明できるようにする
経営管理ビザの更新では、過去の計画だけでなく、現在実際にどのような事業を行っているのかが重要です。
変更後の事業について、
- 何を販売・提供しているのか
- 誰を顧客としているのか
- どのように顧客を獲得しているのか
- どのように売上が発生しているのか
- 主要な取引先は誰なのか
- 店舗・事務所をどのように使用しているのか
- 従業員や外注先はどのような業務を行っているのか
- 申請人本人はどのような経営判断を行っているのか
を説明できるようにします。
事業実態を示す資料としては、
- 契約書
- 請求書
- 売上台帳
- 銀行口座の入出金
- 見積書・発注書
- Webサイト
- ECサイト
- 商品・サービス資料
- 店舗・事務所の写真
などが考えられます。
前回申請時と現在の事業内容が大きく異なるほど、現在の事業実態を客観的な資料で説明できるようにしておくことが重要です。
新しい事業に許認可が必要な場合は特に注意
事業内容を変更した場合には、新しい事業に必要な許認可を確認する必要があります。
たとえば、
- 飲食店営業
- 旅館業・住宅宿泊事業
- 古物営業
- 宅地建物取引業
- 職業紹介事業
- 建設業
- 産業廃棄物関連事業
などです。
経営管理ビザの更新だけを考えるのではなく、実際にその事業を適法に行える状態になっているかを確認します。
出入国在留管理庁も、現在の「経営・管理」の運用において、必要な許認可の取得状況を確認する考え方を示しています。詳細については、在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正についても確認しておくとよいでしょう。
つまり、
「新しい事業を始めた」という事実だけでなく、「その事業を適法に営業できる状態になっているか」
まで確認する必要があります。
定款・登記・Webサイトなどとの整合性も確認する
事業内容を変更・追加した場合には、会社の各種情報も確認しておきます。
たとえば、
- 定款の事業目的
- 法人登記
- 税務申告上の事業内容
- Webサイト
- 会社案内
- 契約書
- 許認可
などです。
新しく始めた事業が定款の事業目的に含まれていない場合には、必要に応じて定款変更や変更登記等を検討します。
また、Webサイトでは新規事業を大きく掲載しているにもかかわらず、更新申請では旧事業しか記載されていない、といった状態も避けたいところです。
会社の実態と、申請書類・外部資料の内容をできる限り一致させることが重要です。
売上構成が変わった場合は数字でも説明する
事業内容が変われば、会社の売上構成も変化することがあります。
たとえば、前期は、
- 貿易事業 80%
- EC事業 20%
だった会社が、現在は、
- 貿易事業 30%
- EC事業 70%
となっている場合です。
このケースでは、
「EC事業を始めました」
という説明だけではなく、
会社の収益構造そのものが変わっている
ことを数字で示した方が実態を説明しやすくなります。
必要に応じて、
- 事業別売上
- 月次売上
- 顧客数
- 契約件数
- 客単価
- 粗利益
などを整理します。
新規事業への移行によって一時的に売上が減少している場合には、今後の売上計画や資金繰りもあわせて整理することが重要です。
売上規模が小さい場合の更新については、経営管理ビザ更新で売上が少ない場合はどうなる?更新申請で確認されるポイントでも詳しく解説しています。
事業変更によって赤字になっている場合
新規事業を立ち上げると、
- 店舗取得費
- 内装工事費
- 設備投資
- 採用費
- 広告費
- 商品開発費
などが先行して発生することがあります。
その結果、事業変更後の決算が赤字になることもあります。
赤字決算だからといって、それだけで直ちに更新できないわけではありません。
ただし、
「新事業への先行投資による一時的な赤字なのか」
それとも、
「事業そのものが成り立っていないため赤字なのか」
では意味が大きく異なります。
売上、売上総利益、現預金、純資産なども確認しながら、事業継続性を判断する必要があります。
また、当期純利益が黒字の場合でも、それだけで更新上の問題がないとは限りません。経営管理ビザ更新で黒字なら安心?赤字ではなくても注意したい財務・事業実態のポイントでは、欠損金や債務超過、資金繰りなども含めて解説しています。
債務超過も発生している場合はさらに注意
事業転換に多額の資金を投入した結果、債務超過になってしまう場合もあります。
この場合には、
「事業内容が変わった」
という説明だけではなく、
今後どのように財務状態を改善していくのか
という経営改善の視点も必要です。
債務超過の場合には、
- なぜ債務超過になったのか
- 今後どのように売上を増やすのか
- 利益率をどのように改善するのか
- いつ頃債務超過を解消できるのか
- それまでの資金繰りに問題がないか
などを整理します。
具体的な計画の考え方については、経営管理ビザ更新で債務超過・赤字の場合の「経営改善計画書」の書き方もあわせてご覧ください。
また、財務状況によっては、中小企業診断士や公認会計士等による改善見通しに関する評価書が必要となる場合があります。
当事務所の債務超過・財務問題でお困りの方へ(ビザ・許認可更新)でも、改善見通し評価書についてご案内しています。
前回の事業計画書と違っていても、無理に合わせない
更新時に、
「前回の事業計画書と違うと不利なのではないか」
と考える方もいます。
しかし、実際には行っていない事業を現在も行っているように説明することは避けるべきです。
事業計画は将来予測です。
- 市場環境
- 顧客ニーズ
- 競合状況
- 人員
- 資金
- 仕入環境
などが変われば、当初計画を見直すことは企業経営として十分にあり得ます。
重要なのは、
前回申請と同じ事業を続けているように見せることではなく、なぜ計画が変わり、現在どのような経営を行っているのかを正確に説明すること
です。
追加資料を求められた場合は「何を確認されているのか」を考える
事業内容が大きく変わっている場合には、更新申請後に入管から追加資料を求められることも考えられます。
追加資料通知が届いた場合には、単に指定された書類を集めるだけではなく、
「入管が何について疑問を持っているのか」
を考えることが重要です。
たとえば、
- 現在の事業実態
- 売上の発生状況
- 新規事業の継続性
- 許認可
- 財務状況
- 経営者本人の活動内容
などの確認が目的となっている可能性があります。
追加資料への対応方法については、経営管理ビザ更新で追加資料を求められた場合の対応方法|赤字・債務超過の場合も解説でも詳しく解説しています。
2025年10月からの新基準との関係
2025年10月16日には、在留資格「経営・管理」の許可基準が改正されました。
主な改正内容として、
- 常勤職員の雇用
- 資本金等3,000万円以上
- 一定の日本語能力
- 経営者の学歴または経営管理経験
- 事業計画書の専門家確認
などがあります。
一方、改正前から経営管理ビザで在留している方については、一定の経過的な取扱いが設けられています。
新基準と経過措置の詳細については、出入国在留管理庁の在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正についてをご確認ください。
また、資本金等3,000万円に満たない既存在留者の更新については、経営管理ビザ更新は資本金3,000万円未満だと不許可になる?既存在留者の更新ポイントを解説でも詳しく解説しています。
そのため、事業内容を変更した会社では、
「新しい事業が成り立っているか」
だけでなく、
「今後、新しい経営管理ビザの基準にどのように対応するのか」
もあわせて考えておく必要があります。
事業内容が変わった場合のチェックリスト
更新前には、次の項目を確認してみてください。
- 前回申請時から何が変わったか説明できる
- 事業変更の理由を説明できる
- 現在の主力事業が明確になっている
- 新規事業で実際に売上・取引が発生している
- 経営者本人が経営・管理に実質的に参画している
- 必要な許認可を取得している
- 定款・登記等と現在の事業内容を確認している
- 事業別の売上構成を把握している
- 新規事業への投資額を把握している
- 今後の売上・利益計画を説明できる
- 赤字・債務超過の有無を確認している
- 新基準への対応状況を確認している
一つでも不安がある場合には、更新期限直前ではなく、早めに整理しておくことをおすすめします。
準備しておきたい資料
案件によって異なりますが、事業内容が変わっている場合には、たとえば次の資料を確認します。
- 前回の経営管理ビザ申請資料
- 直近の法人税確定申告書
- 決算書
- 最新の試算表
- 事業別・月別売上資料
- 契約書
- 請求書・発注書
- 新規事業に関する事業計画
- 店舗・事務所の資料
- 許認可証
- Webサイト・商品・サービス資料
- 従業員・外注先の体制資料
- 新規事業への投資額が分かる資料
- 今後の売上・収支計画
これらをすべて提出するという意味ではありません。
まず、
「なぜ変わったのか」
「現在何をしているのか」
「今後継続できるのか」
を説明するために必要な資料を整理します。
中小企業診断士・行政書士に依頼するメリット
経営管理ビザ更新で事業内容が変わっている場合には、単に申請書を作成するだけでなく、
会社の現在のビジネスモデルそのものを整理する作業
が必要になることがあります。
中小企業診断士は、
- 事業分析
- 売上計画
- 収支計画
- 資金計画
- 経営改善
- 事業計画
を扱う経営の専門家です。
行政書士は、在留資格や各種許認可を扱う行政手続の専門家です。
当事務所では双方の視点から、
- 事業変更の経緯整理
- 現在の事業内容の整理
- 事業別売上・収益構造の確認
- 今後の事業計画作成
- 必要な許認可の確認
- 更新申請に必要となる説明資料の整理
などに対応しています。
当事務所で対応できること
特に次のような場合にはご相談ください。
- 前回申請時と現在の事業内容が大きく異なる
- 新規事業を始めた
- 当初の事業を縮小・撤退した
- 複数事業を行っており、どのように説明すべきか分からない
- 新規事業に必要な許認可を確認したい
- 売上構成が大きく変化した
- 新規事業への投資によって赤字になった
- 債務超過も発生している
- 入管から事業内容について追加資料を求められた
必要に応じて、事業計画、売上計画、収支計画、経営改善計画等を作成します。
ご依頼の流れ
1.お問い合わせ
現在の在留期限と、前回申請時から変更した事業内容をお知らせください。
2.資料確認
前回申請資料、直近の決算書、現在の事業資料等を確認します。
3.事業変更内容の整理
変更理由、現在の主力事業、売上構成、経営者本人の役割等を整理します。
4.必要な対応・お見積り
通常の更新資料で足りるのか、事業計画書や追加説明資料が必要なのかを検討します。
5.書類作成
必要に応じて事業計画書、収支計画、説明資料等を作成します。
6.内容確認・修正
事業実態と申請内容の整合性を確認します。
7.納品
完成した書類を納品します。
料金の目安
事業内容の変更に伴い事業計画書の作成が必要となる場合は、
事業計画書の作成:100,000円(税別)
を目安としています。
赤字・債務超過等により改善見通し評価書が必要となる場合は、
改善見通し評価書の作成:100,000円(税別)
を目安としています。
更新申請そのものや追加資料対応については、ご相談内容を確認したうえで個別にお見積りします。
まとめ
経営管理ビザを取得した後に事業内容が変わること自体は、企業経営では十分に起こり得ます。
重要なのは、前回申請時と同じ事業を続けていることではありません。
変更後も、
- 実際に事業を行っている
- 経営者本人が経営・管理に実質的に参画している
- 必要な許認可を取得している
- 売上・取引等の事業実態がある
- 今後も事業を継続できる
ことを説明できる状態にしておくことが重要です。
前回の事業計画との違いを隠すのではなく、
なぜ事業を変更したのか、現在どのような事業を行っているのか、今後どのように会社を継続していくのか
を整理して更新申請に臨むことをおすすめします。
関連記事・関連サービス
経営管理ビザ更新の事業実態・財務状況については、以下の記事・サービスもあわせてご覧ください。
